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東京高等裁判所 昭和50年(ネ)2191号 判決

控訴人 林良行こと 林鐘石

右訴訟代理人弁護士 富永義政

同 岡田久枝

同 鈴木信司

同 山崎俊彦

同 鈴木忠正

右訴訟復代理人弁護士 前田幸男

被控訴人 内田元子

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一、控訴代理人は、「原判決及び東京地方裁判所昭和四八年(手ワ)第三九九号約束手形金請求事件の手形判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決を求めた。

被控訴人は適式の呼出を受けたが、本件各口頭弁論期日に出頭しなかった。

二、当事者双方の事実上の主張は、原判決事実摘示中「当事者の主張」欄記載のとおりであるからこれを引用する。

三、証拠〈省略〉。

理由

一、請求原因事実は当事者間に争いがない。

二、よって、控訴人の抗弁につき判断するに、原審証人松山英明の証言によると、控訴人の兄の林鐘五が黒木信夫(本件手形の受取人)の妻富永みどりと情を通じて肉体関係を結んでいたこと、黒木は他の事件で起訴され勾留されていたが、保釈後これを知って憤慨し鐘五から金銭をおどし取ろうと考え、昭和四七年一二月末頃銀座の喫茶店で同人に対し金を出さなければ生命および身体に危害を加えかねないような言辞を弄し数回にわたっておどしたので、鐘五は黒木から危害を加えられることをおそれてやむなく本件約束手形及びほか四通の約束手形、小切手合計金五〇〇〇万円のものを黒木に交付することを約したこと、控訴人は鐘五の経営する会社に勤務する者であって、鐘五は控訴人名義の当座預金口座を設けて、これによって実質上自己の振出した手形等の決済をしていたので、控訴人に命じて本件手形を振出さしめたこと、以上の事実が認められる。これによれば、本件手形は黒木の強迫によって振出されたものといわなければならない。

しかし、被控訴人が、本件手形が右のような強迫によって振出された事実を知りながらこれを取得した事実を認めるに足りる証拠はなく、かえって原審証人富永みどりの証言及び原審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は銀座に店舗を所有していたところ、前記黒木信夫が同年一二月中旬頃被控訴人に無断でこの店舗を他に売却処分して代金を着服してしまったのでその損害賠償の趣旨で同年同月末頃黒木から本件手形を取得したもので、その際本件手形振出の事情については何も知らなかったことが認められる。

従って控訴人の抗弁は結局理由がない。

三、してみれば、被控訴人の本訴請求は理由があり、これを認容すべきであって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。

よって、民事訴訟法第三八四条に従い本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松永信和 裁判官 間甲彦次 糟谷忠男)

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